【玻璃匠 山田硝子】江戸切子の魅力と技法
江戸切子といえば、玻璃匠山田硝子といっても過言ではありません。江戸切子を取り扱う工房はたくさん存在し、商品を買おうと思ってもどこの工房を選べばいいかわからない方もいるでしょう。玻璃匠山田硝子は山田栄一郎を祖とし、初代山田智信、輝雄、真照と三代、80年以上続く老舗の工房です。その巧みな技術は世代をこえても確実に受け継がれてきました。この記事では、玻璃匠山田硝子の歴史と、その技術の特徴について解説します。
玻璃匠山田硝子とは
玻璃匠山田硝子は、江戸切子を取り扱う硝子工房です。江戸切子は、東京都で作られているガラス工芸品です。切子とはカットグラスの意味で、その美しさから現在でもグラスを中心に親しまれています。
もともとは無色透明なガラスの表面に模様を入れる工芸品でしたが、技術の向上とともに色をつけたガラスを使った江戸切子が多く生産されるようになりました。今では、青色や赤色などのガラスにカットを入れたものが江戸切子であると認識している方も多くなっています。
江戸切子の特徴は、華やかで独特なカットが刻まれたデザインです。工具の使い分けによって模様を描きます。下絵がないため、線の太さや深さ、バランスは職人の経験によってさまざまです。そのため、作品を見ただけで、どの職人さんのものかわかるとも言われています。
玻璃匠を謳う山田硝子
江戸切子を取り扱う工房は日本中にたくさんあります。しかし、玻璃匠を謳う工房は山田硝子しかありません。
玻璃とは、仏教の中の七宝の1つです。現代だと金・銀・瑠璃(るり)・玻璃(はり)・硨磲(しゃこ)・珊瑚(さんご)・瑪瑙(めのう)が七宝にあたるといわれています。
玻璃は平安時代に中国から入ってきた言葉です。当時、日本ではガラス玉は作れても、ガラスの食器は作れず、高級品として全て輸入されていました。そのため、玻璃は宝というイメージを強く持っています。玻璃匠を歌う山田硝子の作品は高級感漂う、まさに宝といえるものばかりです。
玻璃匠山田硝子の歴史
明治初期、西洋のガラスカット技術を日本に取り入れようと招かれたのが、エマニエル・ホープトマンです。ここで、回転工具による洋式のカット技術が伝えられます。当時、ホープトマン氏から、10数名の日本人が指導を受けました。その中の一人が、山田硝子の祖である山田栄太郎といわれています。
その技術と伝統を受け継ぎ、現代まで江戸切子、花切子の技術を磨き続け、さらなる進化を遂げた結果、現代でも新しい作品を生み出し続けています。
近年では、国内外の展示会も積極的に行っており、優美で繊細なデザインのガラス作品は、アートとしても注目されています。その作品の美しさから、企業CMやメディアでも取り扱うことが増えてきました。
玻璃匠山田硝子の代表的デザイン3選
山田栄太郎から受け継がれ、磨かれてきた玻璃匠山田硝子の職人技は、オリジナルのデザインを生み出してきました。三代に渡り江戸切子、花切子の両技法を取り扱える職人がいる工房は少ないといわれています。その匠な技から生まれる美しい模様も、玻璃匠山田硝子の真骨頂です。ここでは、玻璃匠山田硝子の代表的なデザインを3つ紹介します。
玻璃匠山田硝子特有の「花切子」
山田硝子の大きな特徴は「花切子(はなきりこ)」です。花切子は江戸切子の技術を用い、柔らかさと優しさが印象的な技法です。一般的な江戸切子は、直線的なカットやガラスを磨いて輝きを出し、パキッとした見た目になります。一方、花切子は表面を柔らかく削り、ぼかしを加えるのが特色です。完璧に磨かずに、陰影を残して仕上げることで、儚さや優しさを表現できます。一つの模様を削るだけでも、複数の工具を巧みに使い、独特の質感や曲線美を生み出します。ガラスをより繊細に加工することで、植物や動物など自然特有の命の動きをデザインしています。
伝統文様を活かした縁起のいい「縁繋ぎ」
山田硝子を代表する「縁繋ぎ(ゆかりつなぎ)」は、その繊細さに息をのむ作品です。江戸切子の細い菊繋ぎを全面にあしらい、その余白を円形に磨き上げる技術は、山田硝子ならではのデザインといえます。線と円が連鎖していくことで「過去・現在・未来」や、「ひと・もの・こと」の繋がりを表現し、縁起がよいとされています。光にかざしてみると、円の部分から向こう側の模様が映りこみ、さらに細かい模様となって、目に飛び込んでくるのが魅力です。見る角度によって、遠近の模様のつながりが変化し、より繊細で深みのある、まさに玉となる作品に仕上がっています。特徴的で美しいことから、飲料メーカーのペットボトルのデザインとして採用されている技術です。
未来永劫と、平和な暮らしを願った「青海波」
山田硝子を代表するデザインとして人気が高いのが「青海波(せいがいは)」のモチーフです。形の特徴は、半円形を重ねたものを鱗状に並べ、波を表現していることです。青海波は「無限に広がる穏やかな波に未来永劫と、平和な暮らしへの願い」が込められており、縁起がいい模様の一つといわれています。江戸切子の直線的なカットのすき間に、花切子の技法で細かく波模様が刻まれています。花切子特有のぼかし技術で、手作業ならではの表情が異なる波模様が描かれます。手仕事でランダムに削っていくため、一つとして同じものができない特別感も人気の理由です。
日常の中に玻璃匠山田硝子の作品を
インターネットショップや店頭に並ぶ商品を見ても、玻璃匠山田硝子で作られているのは、ぐい呑みやロックグラスなど日常に使えるものばかりです。「高級品だからと飾るものにせず、日常の暮らしに取り入れることで、日々の暮らしを華やかにしてほしい」という職人の想いが込められています。だからこそ、海外の方や若い世代からも支持され、愛されている工房になったのでしょう。伝統の技術を磨きつつ、新しいデザインも生み出しながら進化している工房として、これからの玻璃匠山田硝子から目が離せません。