金沢箔とは?特徴や歴史を踏まえて魅力を解説
石川県金沢市が誇る文化産業の一つに「金沢箔」があります。
絢爛豪華な金箔である金沢箔は、金沢の風土や特色から生まれたものです。
今回は、金沢箔の魅力について、特徴や歴史を踏まえて解説します。
金沢箔の特徴
金沢箔は、石川県金沢市で生産される金箔です。
古くは戦後時代の武将である前田利家の時代から製造されていたといわれています。
まずは、金沢箔の特徴について見ていきましょう。
金箔作りに適した環境
金沢市は、日本海に面した立地であり、雨が多く日照率も低いため湿度が高いエリアです。
非常に薄い金箔生産は乾燥した場所で起こりやすく、湿度の高い金沢は金箔の製造に適しています。
また、金を延ばす工程である「箔打ち」に使う和紙には、良質な水が必要です。
金沢には「辰巳用水」「鞍月用水」「大野庄用水」といった人々の暮らしを支える美しい水の流れがあります。
こうした恵まれた環境があったからこそ、金沢箔は世界に誇れる文化となりました。
全国シェア98%以上
現在、金沢箔の全国シェアは98%以上、銀箔や洋箔においては100%を誇っています。
その理由として、江戸時代に行われていた箔の隠し打ちが挙げられます。
当時、幕府では江戸に「箔座」という金銀箔類の統制機関を設けていました。
いわゆる「箔打ち禁止令」という通達で、江戸と京都以外で金箔を製造することが禁止されます。
しかし、当時の金沢である加賀藩では、幕府に隠れて金の製造を行う「箔の隠し打ち」が続けられました。
その結果、少ない材料で質の高い金箔を大量に作る技術が磨かれ、現在にも受け継がれているといわれています。
1万分の1ミリの世界
金沢箔の魅力は、なんといっても1万分の1ミリという薄さでしょう。
これだけ薄く伸ばされているのにも関わらず金の輝きを損なわないのは、長きにわたり磨かれた職人たちの技術の賜物です。
この薄さだからこそ、素材を問わず貼り付けられる上に、繊細な装飾に活用しやすいといった金沢箔の魅力を実現しています。
3つの特性
金沢箔は「酸化しない」「変色しない」「腐食しない」といった3つの特性があります。
大抵の金属は空気や水の影響を受けますが、金箔の原料である金は非常に安定した金属であり錆たり腐食したりすることがありません。
こうした美しさを保持できる金沢箔の特徴を生かし、金屏風や漆器、エクステリアなどさまざまな調度品、美術品に活用されています。
金沢箔の歴史
金沢箔は、400年以上前から製造されてきた工芸品です。
続いては、金沢箔の歴史について解説します。
戦国時代後半〜江戸時代
金沢箔の歴史は、戦国時代の後半から始まります。
当時の金沢は加賀藩と呼ばれ、藩祖である前田利家が治めていました。
1593年に前田利家によって書かれた文書には、箔打を命じる内容が記されており、同時期より金沢箔が製造されるようになったと考えられています。
しかし、江戸時代に入ると「箔打ち禁止令」が敷かれ、江戸と京都以外で金箔や銀箔を製造できなくなりました。
加賀藩も例外ではなかったものの、秘密裏に箔打ちは伝承され続けます。
また、職人たちは権利取得にも力を注ぎ、ついに1864年には金沢城の修復や御用箔に限定した箔打を許可されました。
明治時代から昭和にかけて
長く続いた箔打ち禁止令は、明治時代に入り解除されることとなりました。
これを機に、金沢箔は勢いを増し、地域の産業として大きく進化し始めます。
また、箔打ち機が開発されたことも、金沢箔の生産効率を飛躍的に伸ばす要因となりました。
しかし、第二次世界大戦中は、金の使用や生活必需品以外の販売が制限されるようになります。
金沢箔も大きな影響を受け、明治時代のように活発な生産ができなくなりました。
第二次世界大戦が終わり、ようやく金沢箔にも復活の兆しが見え始めます。
そして、ついに戦国時代から続く伝統の技を受け継ぎ作られる良質な金沢の金箔は、1974年に施行された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」に基づき、1977年に「金沢箔」として指定伝統的工芸材料となりました。
現代の金沢箔
日本のシェア率98%以上を誇る金沢箔ですが、時代の流れとともに職員の数は減少傾向にあります。
しかし、受け継がれた大切な技術を絶やさぬようにと、2009年に「金沢金箔伝承技術保存会」が設立されました。
同保存会では、金沢箔の伝統的な技術である「縁付(えんづけ)金箔」を次世代へとつなぐ活動を行なっています。
縁付け金箔は、2014年に国選定保存技術、2020年にはユネスコ無形文化遺産に登録された世界が認める日本伝統の技です。
金沢箔の種類
金沢箔と一括りにしてもさまざまな種類があります。
主な製法として2つの種類を紹介します。
縁付け金箔
縁付け金箔とは、金箔作りにおいて古くから採用されている製法です。
高品質な手漉き和紙である「雁皮紙(がんぴし)」を箔打紙に使用し、薄く伸ばした金を静電気の起きにくい竹枠で1枚ずつ切り揃えます。
極限まで薄く伸ばされた金箔の出来栄えは、箔打紙と職人の技術に左右されるため、非常に神経を使う作業です。
こうした手間暇をかけて仕上げられた金箔は、柔らかな凹凸があり温かみが感じられます。
断切箔
断切箔は、縁付け金箔の工程を簡素化したもので昭和40年代ごろに開発されました。
縁付け金箔との大きな違いは、箔打紙にグラシン紙を用いる点です。
また、縁付け金箔のように1枚ずつ切るのではなく、1,000枚程度にまとめて断ち切ります。
もちろん、職人の技を要する製法ですが、効率的に多くの金箔を作れるため、現在多く取り入れられている現代的な製法です。
現在、日本の金箔の8割は、断切箔といわれています。
金沢箔の代表的な製造元
金沢箔の代表的な製造元の中から、以下の3社を紹介します。
株式会社今井金箔
株式会社今井金箔は、1898年創業の金箔製造卸会社です。
創業から100年以上が経つ現在も、高品質な金沢箔を作り続けています。
業界では唯一、自社における一貫生産体制を築いており、熟練の職人により継承され続けた技術を次世代へと受け継いでいます。
その一環として、金沢箔の魅力を伝える金箔貼り体験も実施しており、誰もが金箔に触れられる機会を設けている点も魅力です。
株式会社箔一
株式会社箔一は、金沢箔の製造・販売会社として1975年に創業しました。
金沢箔の伝統を受け継ぐ活動に加えて、新たな技術の開発にも積極的に取り組んでいます。
また、工芸品や調度品はもちろん、化粧品や食用金箔、建築装飾に至るまで幅広いジャンルに金沢箔の魅力を取り入れ、その可能性を世界に向けて発信している点も大きな特徴です。
株式会社金銀箔工芸さくだ
株式会社金銀箔工芸さくだは、1919年に金沢箔の職人として始まった会社です。
その後、多様な金箔を取り扱う金箔販売業として仏壇仏具業界やクラフト業界に広く知られるようになりました。
自社でも伝統工芸品の製作に取り組んでおり、金箔漆器からガラス、布などバリエーション豊かな製品を世に生み出しています。
まとめ
金沢箔は、日本が誇る伝統技術のひとつです。
400年以上の歴史において、箔打ち禁止令が敷かれた時も職人たちのひたむきな努力により受け継がれた技術は、現在もなお貴重な財産として大切にされています。
また、金沢箔の魅力はとどまるところを知らず、料理や化粧品、空間を彩るアイテムなど思いも寄らない形で私たちの生活に取り入れられるようになりました。
この先も金沢箔の可能性は、世界中で開花していくことでしょう。