
旧竹林院庭園|国指定名勝「延暦寺坂本里坊庭園」最大規模の池泉回遊式庭園を完全ガイド
滋賀県大津市坂本にある旧竹林院庭園は、延暦寺の里坊庭園として最大規模を誇る面積3,300平方メートルの池泉回遊式庭園です。国指定名勝「延暦寺坂本里坊庭園」の代表的な庭園であり、大宮川の清流を取り入れた曲水を主体とし、八王子山を借景とした美しい景観で知られています。江戸時代初期に築造された里坊の書院前庭園で、穴太積みの石垣、滝組、築山などが巧妙に配置され、四季折々の風情を楽しむことができます。近年は座卓を活用したリフレクション撮影でも話題を集めており、非公開庭園が多い坂本の中で通年公開されている貴重な里坊庭園です。
旧竹林院庭園の概要・基本情報
旧竹林院庭園は、滋賀県大津市にある日本庭園で、国の名勝および坂本伝統的建造物群保存地区の伝統的建造物として指定されています。坂本の延暦寺里坊群の一つ、旧竹林院境内南西にある回遊式庭園で、面積3,300平方メートルは里坊庭園の中で最大規模を誇ります。
旧竹林院は、比叡山延暦寺の門前町として栄えた坂本に点在する里坊(高僧の隠居所)のひとつです。邸内には、地形を利用した滝組と築山を配した広さ約3,300平方メートルの庭園が広がり、主屋をはじめ2棟の茶室や四阿(あずまや)などが配置されています。
大津市坂本は、門前町として古来からおおいに栄えてきた地域で、一帯は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。なかでも里坊は、歴史の街・坂本ならではの町並みをつくっており、里坊は延暦寺の僧侶の隠居所で、今も数多く残されています。
歴史と由来
旧竹林院の歴史は、江戸時代初期に築造された里坊の書院前庭園として始まります。竹林院は里坊のひとつで、延暦寺の中でも格式の高い寺院でした。比叡山で修行を積んだ僧侶たちが、老齢となって余生を過ごすために、延暦寺座主から賜った「里坊」と呼ばれる隠居坊として機能していました。
明治時代初頭の廃仏毀釈の影響で竹林院は衰退し、土地は個人の手に渡りました。現在の庭園はこの時代に改修されたものであり、近代庭園として国の名勝に指定されています。このような歴史的変遷を経ながらも、江戸時代初期の里坊庭園の面影を色濃く残している貴重な文化財です。
日吉大社の参道に立ち並ぶ寺々は全て延暦寺の里坊であり、大津市の坂本地区には50余りの格式高い里坊寺院が現存していますが、一般公開されているのは旧竹林院のみという貴重な存在です。里坊は、比叡山の山上の寺院「山坊」に対する呼称で、延暦寺の僧侶が里で暮らすための施設として重要な役割を果たしていました。
茶室と四阿は大正年間に建てられたものとされ、平成5年3月に大津市指定文化財に、庭園は平成10年12月に国の名勝に指定されています。このように、建築と庭園が一体となって文化財として保護されている点も、旧竹林院の特徴の一つです。
延暦寺里坊としての格式と役割
旧竹林院は、延暦寺の里坊として特別な格式と役割を持っていました。里坊とは、比叡山の僧侶の隠居所で、美しい石積みの町「坂本」には数多く残されており、旧竹林院は観覧が可能な数少ない里坊の一つとして貴重な存在です。
延暦寺坂本里坊は、雙厳院庭園、宝積院庭園、滋賀院門跡庭園、佛乗院庭園、旧白毫院庭園、旧竹林院庭園、蓮華院庭園、律院庭園、実蔵坊庭園、寿量院庭園の11の庭園からなる国指定名勝の構成要素として位置づけられています。
旧竹林院庭園は、これらの里坊庭園群の中でも最大規模を誇り、代表的な存在として重要な役割を担っています。日吉大社の原点である近江国の八王子山を借景に、坂本地区の特徴となっている「穴太積み(あのうづみ)」の石垣を土留めにして土を盛った築山と、滝組を併せた回遊式庭園として、里坊庭園の典型的な形式を現代に伝えています。
比叡山延暦寺の門前町として古来から栄えてきた坂本において、里坊は延暦寺の繁栄を物語る重要な文化遺産であり、旧竹林院はその中核的な存在として、延暦寺と坂本の歴史を現代に伝える貴重な役割を果たしています。
旧竹林院庭園の見どころ・特徴
旧竹林院庭園の最大の魅力は、里坊庭園として最大規模を誇る池泉回遊式庭園の美しさと、八王子山を借景とした雄大な景観にあります。穴太積みの石垣技術と大宮川の清流を活用した巧妙な作庭により、四季を通じて異なる表情を楽しむことができます。
里坊庭園最大規模の池泉回遊式庭園
旧竹林院庭園は、面積3,300平方メートル(約1,000坪)という里坊庭園の中で最大規模を誇る池泉回遊式庭園です。大宮川を引き込んで曲水とし、地形をたくみに利用しながら滝組と築山を配した構成は、江戸時代初期の作庭技法の粋を集めた傑作です。
庭園内には滝組、築山が起伏に富んで配置され、五重の石塔、井筒などの石造物も多く残されています。これらの石造物は、里坊としての格式を示すとともに、庭園の景観に深みと歴史的な重厚感を与えています。
池泉回遊式庭園として設計されているため、庭園内を歩きながら様々な角度から景観を楽しむことができます。歩を進めるごとに変化する景色は、まさに「歩く絵巻物」とも言える美しさで、訪問者を飽きさせることがありません。
大宮川の清流を取り入れた曲水は、庭園に動的な美しさをもたらし、水音とともに静寂な空間に生命感を与えています。この水の流れは、季節による水量の変化とともに、庭園の表情を豊かに演出する重要な要素となっています。
八王子山借景と穴太積み石垣の美しさ
旧竹林院庭園の大きな特徴の一つが、八王子山を借景とした雄大な景観です。日吉大社の原点である近江国の八王子山を借景として取り込むことで、庭園に無限の広がりと神聖な雰囲気を与えています。この借景技法は、限られた空間に無限の広がりを感じさせる日本庭園の真骨頂を示しています。
穴太積み(あのうづみ)の石垣は、坂本地区の特徴的な技術で、寺院や城の石垣施工を行った技術者集団である穴太衆(あのうしゅう)によって築かれました。この石垣技術は、自然石を巧妙に組み合わせて築く技法で、美しさと強度を兼ね備えた優れた建築技術です。
旧竹林院の石垣は、山門から受付に向かう苑路で見ることができ、穴太積みの美しさと技術の高さを実感することができます。これらの石垣は、土留めとしての機能を果たしながら、庭園の美的価値を高める重要な要素となっています。
青々とした苔と石垣の組み合わせは、旧竹林院庭園の最も美しい景観の一つで、特に新緑の季節や紅葉の時期には、苔の緑と植栽の色彩が絶妙なコントラストを見せてくれます。この苔と石垣の美しさは、長年にわたって大切に維持管理されてきた結果であり、庭園管理の技術の高さを物語っています。
国指定名勝「延暦寺坂本里坊庭園」としての価値
旧竹林院庭園は、国指定名勝「延暦寺坂本里坊庭園」の構成要素として、極めて高い文化的価値を有しています。平成10年12月に国の名勝に指定されたことで、その歴史的・芸術的価値が公式に認められました。
延暦寺坂本里坊庭園は、11の庭園からなる総合的な名勝ですが、その中でも旧竹林院庭園は最大規模を誇り、代表的な存在として位置づけられています。江戸時代初期の里坊庭園の典型的な形式を現代に伝える貴重な事例として、庭園史上においても重要な意味を持っています。
明治時代の廃仏毀釈により一度は衰退した庭園が、個人の手によって改修・維持され、現代まで受け継がれてきたという歴史的経緯も、文化財としての価値を高めています。近代庭園として国の名勝に指定されているのは、この歴史的変遷と現在の保存状況の良さが評価されたものです。
また、坂本伝統的建造物群保存地区の伝統的建造物としても指定されており、庭園と建築、そして周辺の歴史的街並みが一体となった文化的景観として保護されています。このように多重的な文化財指定を受けていることも、旧竹林院庭園の文化的価値の高さを示しています。
国指定名勝としての価値は、単に美しい景観を持つだけでなく、日本の庭園文化の発展過程を示す重要な資料であり、後世に継承すべき貴重な文化遺産として認識されています。非公開庭園が多い坂本の中で通年公開されている点も、文化財の活用と保存の両立を図る模範的な事例として評価されています。
拝観案内
旧竹林院庭園では、里坊庭園最大規模の池泉回遊式庭園を通年で公開しており、四季を通じて異なる美しさを楽しむことができます。特に近年話題となっているリフレクション撮影や、秋の紅葉ライトアップなど、伝統的な庭園鑑賞に加えて現代的な楽しみ方も提供しています。
庭園鑑賞のポイントとリフレクション撮影
旧竹林院庭園の鑑賞は、池泉回遊式庭園の特徴を活かした散策が基本となります。庭園内を歩きながら、八王子山の借景、大宮川の清流を取り入れた曲水、穴太積みの石垣、滝組と築山など、様々な要素が織りなす美しい景観を楽しむことができます。
青々とした苔と紅葉のコントラストは、旧竹林院庭園の最も美しい見どころの一つです。特に苔の美しさは格別で、穴太積みの石垣との組み合わせにより、他では見ることのできない独特の景観を作り出しています。
平成30年9月より、物置にしまってあった座卓を活用したリフレクション撮影ができるようになり、大きな話題を集めています。主屋にセットされた漆黒のテーブルに映る逆さ庭園が、現代の写真愛好家に人気となっており、「床もみじ」ならぬ「テーブルもみじ」として親しまれています。
このリフレクション撮影は、おそらく京都で大人気の瑠璃光院に触発されて導入されたもので、伝統的な庭園鑑賞に現代的な要素を加えた新しい楽しみ方として注目されています。座卓を使用したリフレクション撮影は特に人気が高く、SNS映えする写真が撮影できることから多くの来園者に愛されています。
庭園内には五重の石塔、井筒などの石造物も多く残されており、これらの歴史的な石造物と自然の美しさが調和した景観も見逃せません。室内からも庭園を楽しめますが、庭園を満喫するには屋外を回遊することをお勧めします。
茶室・四阿と抹茶体験
旧竹林院には、大正年間に建てられた2棟の茶室と四阿(あずまや)があり、これらは大津市の指定文化財となっています。これらの建築物は、庭園と一体となって旧竹林院の文化的価値を高める重要な要素です。
茶室では、庭園を眺めながら抹茶を味わうことができます。美しい庭園の景色を見ながらいただく抹茶は格別で、里坊という歴史ある空間での茶の時間は、日常を忘れさせてくれる特別な体験となります。
四阿(あずまや)は、庭園内の休憩スペースとして機能しており、散策の途中で一息つきながら庭園の美しさをゆっくりと堪能することができます。四阿からの眺望は、庭園の全体像を把握できる絶好のポイントとなっており、写真撮影スポットとしても人気があります。
約3,300平方メートルにも及ぶ庭園は、四季折々の風景を楽しめる設計となっており、茶室や四阿からの眺望も季節によって大きく表情を変えます。特に新緑の季節と紅葉の時期は、茶室からの眺めが最も美しいとされています。
抹茶体験は、庭園入場料とは別料金となりますが、里坊という格式ある空間で、国指定名勝の庭園を眺めながらの茶の時間は、非常に価値のある体験として多くの来園者に愛されています。
紅葉ライトアップと季節の楽しみ方
旧竹林院庭園は、四季を通じて異なる美しさを楽しむことができる庭園ですが、特に秋の紅葉シーズンは格別の美しさを見せてくれます。青々とした苔と紅葉のコントラストは息をのむような美しさで、多くの人々を魅了しています。
紅葉の時期には特別なライトアップが実施されます。2024年11月1日(金)から12月8日(日)の18時00分から20時30分には、「NAKED夜さんぽ 比叡山坂本」というライトアップイベントが開催され、各回50名限定の要予約制で実施されます。このライトアップでは、庭園の美しさが夜間照明によってより一層引き立てられ、昼間とは全く異なる幻想的な景観を楽しむことができます。
春の新緑の季節には、苔の鮮やかな緑と新芽の淡い緑が美しいコントラストを見せ、生命力あふれる庭園の表情を楽しむことができます。大宮川の清流も春の雪解け水により水量が増し、滝組の水音がより美しく響きます。
夏には、築山の緑陰が涼しげで、八王子山の借景とともに涼を感じることができます。穴太積みの石垣に映える夏の植栽も美しく、暑さを忘れさせてくれる癒しの空間となります。
冬には、雪化粧した庭園が静寂で厳かな美しさを見せ、里坊としての荘厳な雰囲気を最も強く感じることができる季節です。雪に覆われた石垣や石造物は、普段とは全く異なる表情を見せてくれます。
アクセス・利用情報
旧竹林院庭園は、京阪電鉄やJRを利用してアクセス可能で、比叡山延暦寺や日吉大社などの周辺観光地と合わせて訪問することで、坂本の歴史と文化をより深く理解することができます。
交通アクセス
旧竹林院庭園へのアクセスは、京阪石山坂本線「坂本比叡山口」駅から徒歩10分が最も便利です。駅から庭園までは、坂本の美しい石積みの街並みを楽しみながら歩くことができ、里坊群の歴史的な雰囲気を感じながらのアプローチも旧竹林院庭園訪問の楽しみの一つです。
JR湖西線を利用する場合は、「比叡山坂本」駅から徒歩約20分となります。JR比叡山坂本駅から京阪坂本比叡山口駅まで徒歩10分の距離にあるため、JR駅からは少し距離がありますが、路線バスも運行されており、バスを利用することでアクセス時間を短縮することができます。
車でお越しの場合は、名神高速道路京都東インターチェンジから約40分、湖西道路真野インターチェンジから約15分程度の距離にあります。専用駐車場が17台分用意されており(乗用車12台、大型バス5台)、無料で利用することができます。大型バスでお越しの場合は事前連絡が必要です。
京都市内からは約45分、大阪市内からは約1時間30分程度でアクセス可能で、関西圏からの日帰り観光地として人気があります。特に日吉大社や比叡山延暦寺と組み合わせた観光コースとして多くの観光客に利用されています。
拝観時間・料金・駐車場情報
旧竹林院庭園の開館時間は、午前9時から午後5時まで(入園は午後4時30分まで)となっています。休園日は月曜日(祝休日は開園し、翌火曜日が休館)、祝日の翌日、年末(12月25日から12月31日)となっており、年間を通じてほぼ毎日開園しています。
入園料は、大人330円、小学生160円という非常にリーズナブルな設定となっています。国指定名勝の庭園を、これほど手頃な料金で鑑賞できることは特筆すべき点で、多くの人々が気軽に訪問できる文化施設として親しまれています。
抹茶体験については、庭園入場料とは別料金となっており、詳細は現地でお確認ください。リフレクション撮影のための座卓利用は、通常の入園料に含まれており、追加料金は不要です。
駐車場は無料で17台分(乗用車12台、大型バス5台)が用意されています。観光シーズンや週末は混雑する場合があるため、公共交通機関の利用も検討されることをお勧めします。大型バスでお越しの場合は、事前に連絡が必要ですので、必ず事前にお問い合わせください。
紅葉ライトアップ期間中は、通常とは異なる料金体系となり、事前予約が必要となります。ライトアップイベントは各回50名限定となっているため、早めの予約をお勧めします。
滞在時間の目安は1時間から1時間30分程度で、庭園をゆっくりと回遊し、茶室での抹茶体験やリフレクション撮影を楽しむことができます。季節の美しさを堪能するためには、時間に余裕を持った訪問をお勧めします。
<住所> 〒520-0113 滋賀県大津市坂本5-2-13
参照サイト
・元里坊旧竹林院|国指定名勝庭園・景観重要建造物:https://kyuchikurinin.jp/
・滋賀県観光情報[公式観光サイト]旧竹林院:https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/1284/