
史跡草津宿本陣庭園|江戸時代の情緒を残す本陣建築と枯山水庭園の魅力を完全ガイド
滋賀県草津市に佇む史跡草津宿本陣庭園は、江戸時代の面影を色濃く残す貴重な文化遺産です。東海道と中山道が合流する交通の要衝に位置し、現存する本陣建築としては全国最大級の規模を誇ります。建物の奥には静寂な枯山水庭園が配され、訪れる人々を江戸時代へといざないます。
史跡草津宿本陣庭園の概要・基本情報
史跡草津宿本陣庭園は、江戸時代に大名や公家の宿泊施設として機能した本陣の遺構です。1949年に国の史跡に指定され、現在は歴史博物館として一般公開されています。建物の総面積は1,706平方メートル、敷地面積は4,727平方メートルという広大な規模を有し、39室もの部屋を備えた当時の本陣建築の頂点を示す建造物として高く評価されています。
歴史と由来
草津宿本陣の歴史は、寛永12年(1635年)に田中七左衛門家が本陣職を拝命したことに始まります。田中家は代々木材商を営んでいたため、この本陣は「木屋本陣」とも呼ばれていました。享保3年(1718年)の草津宿大火で一度焼失しましたが、その後膳所藩主本多家が所有していた「瓦ヶ浜御殿」を譲り受けて再建されました。
現在の建物は江戸時代末期の弘化3年(1846年)頃に整備されたもので、書院造の格式高い建築様式を今に伝えています。明治時代に入ると本陣としての役割を終えましたが、建物と庭園は良好な状態で保存され、昭和24年に国の史跡指定を受けました。平成元年から8年にかけて大規模な保存整備工事が実施され、現在は江戸時代の姿そのままに復元されています。
東海道・中山道の交通要衝としての役割
草津宿は東海道五十三次の52番目の宿場町として、また中山道との合流地点として、江戸時代における交通の要衝でした。この立地の重要性により、草津宿には田中七左衛門本陣と田中九蔵本陣の2軒の本陣が設置され、多くの大名や公家、幕府の要人たちが利用していました。
特に田中七左衛門本陣は、その規模の大きさから格式の高い利用者を迎え入れることが多く、宿帳である「大福帳」には歴史上の著名人物の名前が数多く記されています。江戸と京都を結ぶ主要街道の分岐点という地理的条件が、この本陣を単なる宿泊施設以上の重要な役割を担う場所へと押し上げていました。
史跡草津宿本陣庭園の見どころ・特徴
史跡草津宿本陣庭園の最大の魅力は、江戸時代の本陣建築がほぼ完全な形で現存していることです。建物内部には上段の間、向上段の間、書院、台所など当時の機能がそのまま残され、さらに建物の奥には趣のある枯山水庭園が配されています。
現存最大級の本陣建築の魅力
草津宿本陣の建物は、現存する本陣建築としては全国最大級の規模を誇ります。書院造で建てられた建物には、表門、御除門、敷台付き玄関など本陣建築の典型的な要素が完備されており、江戸時代の格式高い建築様式を間近で観察することができます。
建物内で特に注目すべきは「上段の間」と「向上段の間」です。上段の間は最も格式の高い部屋で、格天井や違い棚、精巧な欄間彫刻など細部に至るまで当時の最高水準の技術が施されています。向上段の間には京都の儒学者・皆川淇園の書も展示されており、文化的価値の高さを物語っています。
また、畳廊下の広さは圧巻で、通常時でも30から40人の宿泊が可能でしたが、この廊下を開放することで70人ほどの大規模な宿泊にも対応できました。五連式のかまどが設置された台所では、大人数分の食事を調理していた当時の様子を想像することができます。
建物奥の枯山水庭園
建物の奥に配された枯山水庭園は、本陣建築に彩りを添える重要な要素です。庭園自体はそれほど大規模ではありませんが、上段の間や向上段の間から眺める景色は格別で、江戸時代の大名や公家たちも同じ風景を楽しんでいたことでしょう。
枯山水の様式で作られたこの庭園は、石組みと砂紋の組み合わせによって自然の風景を抽象的に表現しています。四季を通じて異なる表情を見せる庭園は、建物内部の豪華な装飾とは対照的な静寂さを演出し、訪問者に心の安らぎを提供しています。
庭園を眺めながら座敷に座ると、江戸時代の旅人たちが感じていた疲れを癒す空間の魅力を実感することができます。現代においても、この空間は都市部の喧騒を忘れさせてくれる貴重な癒しの場となっています。
歴史的価値の高い所蔵品・資料
草津宿本陣には、江戸時代から現代にかけて蓄積された貴重な歴史資料が数多く保存されています。最も注目すべきは、宿泊者の記録を残した「大福帳」と呼ばれる宿帳です。182冊にも及ぶこれらの記録には、利用者の名前、従者の数、宿泊日数などが詳細に記されており、江戸時代の交通事情や社会情勢を知る上で極めて重要な史料となっています。
特に歴史的な価値が高いのは、元禄12年(1699年)に浅野内匠頭と吉良上野介が9日違いで宿泊した記録です。これは赤穂浪士の討ち入り事件が起こる3年前のことで、両者が同じ宿に泊まっていたという歴史の興味深い一面を示しています。
また、文久元年(1861年)に皇女和宮が14代将軍徳川家茂への降嫁の途中で立ち寄った際の記録や、慶応元年(1865年)に新選組の土方歳三、斎藤一らが宿泊した記録なども残されており、幕末の激動期における重要人物たちの足跡をたどることができます。
拝観案内
史跡草津宿本陣庭園を拝観する際は、建物の歴史的価値と庭園の美しさの両方を存分に味わうことができるよう、十分な時間を確保することをおすすめします。館内では江戸時代の本陣の機能や当時の生活様式について詳しく学ぶことができ、歴史好きの方はもちろん、建築や庭園に興味のある方にとっても見応えのある施設です。
拝観のポイントと楽しみ方
史跡草津宿本陣庭園の拝観では、まず建物の外観から江戸時代の本陣建築の特徴を確認しましょう。表門から敷地に入ると、当時の格式の高さを物語る建物配置を実感できます。建物内部では、部屋ごとに異なる機能や装飾に注目しながら見学を進めてください。
上段の間では格天井の美しさと違い棚の精巧な造りを、向上段の間では皆川淇園の書をじっくりと鑑賞しましょう。畳廊下の広さは実際に歩いてみることでその規模を実感できます。台所では五連式のかまどや当時の調理環境を見学し、江戸時代の食文化についても学ぶことができます。
建物の奥にある枯山水庭園は、上段の間や向上段の間から眺めるのが最も美しく見えるポイントです。季節によって異なる表情を見せる庭園は、春の新緑、夏の深緑、秋の紅葉、冬の雪景色とそれぞれに趣があります。ゆっくりと座って庭園を眺めながら、江戸時代の大名や公家たちが感じていた安らぎを体験してください。
歴史上の著名人たちの足跡
草津宿本陣には、日本史上重要な人物たちが数多く宿泊しており、その足跡をたどることは歴史散策の大きな楽しみです。大福帳に記された名前を見ながら、それぞれの人物が草津宿を訪れた背景や時代状況について思いを馳せることができます。
元禄12年(1699年)の浅野内匠頭と吉良上野介の宿泊記録は、後の赤穂浪士事件を知る現代人にとって特に興味深いものです。両者が9日違いで同じ宿に泊まっていたという事実は、歴史の偶然の面白さを物語っています。
皇女和宮の立ち寄りは、政略結婚として江戸に向かう途中の出来事でした。当時再現された昼食の献立も展示されており、皇族の食事がどのようなものだったかを知ることができます。新選組の土方歳三らの宿泊記録は、幕末の動乱期における志士たちの活動を身近に感じられる貴重な資料です。
その他にも、シーボルトや各藩の藩主、明治天皇など多くの著名人が利用した記録が残されており、草津宿本陣が単なる宿泊施設ではなく、日本の歴史の重要な舞台であったことを実感できます。
アクセス・利用情報
史跡草津宿本陣庭園へのアクセスは、JR草津駅から徒歩圏内で非常に便利です。草津駅は東海道本線と草津線が交差する交通の要衝で、京都や大阪からのアクセスも良好です。公共交通機関での来館が推奨されていますが、車でお越しの場合も周辺に駐車場が確保されています。
交通アクセス
史跡草津宿本陣庭園へは、JR東海道本線・草津線の草津駅東口から徒歩約8分から10分でアクセスできます。駅から東海道の道筋に沿って歩くと、江戸時代の面影を残す町並みを楽しみながら到着することができ、散策そのものも観光の一部として楽しめます。
京都方面からは、JR東海道本線で草津駅まで約20分、大阪方面からは約45分程度です。名古屋方面からは東海道新幹線で京都駅まで行き、JR東海道本線に乗り換えて草津駅まで約40分のアクセスとなります。
車でお越しの場合は、名神高速道路の栗東インターチェンジまたは新名神高速道路の草津田上インターチェンジから約15分です。東海道・中山道の分岐点にある石造道標も市指定文化財として保存されており、こちらも合わせて見学することをおすすめします。
草津駅からはまめバスも運行されており、草津宿本陣停留所で下車することもできます。徒歩でのアクセスが困難な方や荷物の多い方は、こちらのバスを利用するのも便利です。
拝観時間・料金・駐車場情報
重要な注意事項として、史跡草津宿本陣庭園は令和6年(2024年)6月1日から令和7年(2025年)3月31日まで耐震工事のため休館しております。工事完了後の再開館については、草津市の公式サイトで最新情報をご確認ください。
通常の拝観時間は9時00分から17時00分まで(入館は16時30分まで)です。休館日は月曜日(月曜日が祝日の場合は開館)、祝日の翌日(土日曜・祝日と重なった場合は開館)、年末年始(12月28日から1月4日)となっています。
入館料は一般240円、大学・高校生180円、小・中学生120円です。隣接する草津宿街道交流館との共通券も販売されており、一般350円、大学・高校生260円、小・中学生180円でお得に両施設を見学できます。20名以上の団体での入館の場合は団体割引が適用されます。
駐車場については、史跡草津宿本陣に6台、草津宿街道交流館に2台の乗用車が駐車可能です。大型観光バスについては交通規制により進入できませんが、降車場と乗車場が設けられています。周辺には複数のコインパーキングもあり、草津駅周辺の駐車場を利用して徒歩でアクセスすることも可能です。
〈住所〉〒525-0034 滋賀県草津市草津1-2-8
参照サイト
・史跡草津宿本陣|草津市:https://www.city.kusatsu.shiga.jp/kusatsujuku/honjin/index.html
・草津宿本陣 | 滋賀県観光情報[公式観光サイト]:https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/1703/
・国指定史跡 草津宿本陣 – 草津市観光物産協会:https://kanko-kusatsu.com/spot/kusatsujyukuhonjin