
坂道を歩けば、尾道がわかる。路地と寺と海が重なる町の楽しみ方
広島県尾道市は、2015年に「箱庭的都市」として日本遺産に認定された港町です。山と海に挟まれたわずかな平地に、坂道・古寺・民家が積み重なるように並ぶ景観は、どこか懐かしく、でも初めて見るのに「知っている気がする」不思議な感覚を呼び起こします。坂を一本のぼるたびに、風景の表情がほんの少しずつ変わっていく——そんな町の歩き方をご紹介します。
尾道の「坂の町」はなぜ生まれたのか

尾道は「坂道の町」と呼ばれています。古くから商店街がある駅東側のエリアは、山と海に挟まれているため平地が少なく、山肌に家屋や寺院が密集しているのです。旧市街地は尾道水道と、千光寺山・西国寺山・浄土寺山の三つの山に囲まれており、斜面地には多くの家々が立ち並び、家々や寺社を結ぶ坂道が張り巡らされています。この地形そのものが、尾道らしい風景を生んだといえます。
千光寺山ロープウェイと頂上展望台「PEAK」
まずは高いところから町全体を見渡してみましょう。市街地から千光寺公園までは、千光寺山ロープウェイで約3分で結ばれています。山頂展望台からは尾道市内が一望できるとともに、瀬戸内海の島々が眺められ、天気の良い日には四国連山をも遠望することができます。山頂には長さ63メートルの展望デッキ「千光寺頂上展望台PEAK」があり、尾道の街並みや尾道水道を一望できます。ロープウェイは片道で乗り、坂を歩いて下るのが地元でもおすすめの回り方です。
千光寺
尾道のシンボルとも言える千光寺は、標高140mの大宝山中腹に位置し、大同元年(806年)に弘法大師によって開基された歴史ある古刹です。珍しい舞台造りの本堂は「赤堂」とも呼ばれ、林芙美子の『放浪記』にも登場する尾道の代表的な風景です。境内には伝説の残る巨岩「玉の岩」もあり、信仰と奇岩が混在する独特の空間が広がっています。
文学のこみち
千光寺からの下り道には、尾道ゆかりの文学者たちの言葉が刻まれた石碑が点在する「文学のこみち」が続きます。尾道ゆかりの作家・詩人の名作が刻まれた自然石の文学碑が25基あります。坂を下りながら石碑の言葉をひとつひとつ読んでいると、作家たちがこの景色をどう見ていたのか、自然と想像が膨らんできます。急いで歩かず、ゆっくり足を止めながら巡るのが似合う道です。
天寧寺と三重塔の眺め
尾道駅から東へ徒歩15分ほどの千光寺踏切から坂道を上がったところに「天寧寺」があります。ここからは、天寧寺の三重塔と共に、尾道を象徴する景観の一つでもある「尾道水道」を眺めることができます。境内山手には貞治6年(1367年)に足利義詮が建立した国重要文化財の塔婆(海雲塔)があり、この塔越しに見る風景は尾道を代表する風景のひとつです。寺と塔と海が一枚の絵のように重なるこの場所は、尾道の坂道散策でいちばん「来てよかった」と感じる瞬間のひとつかもしれません。
猫の細道
艮神社から天寧寺海雲塔にわたってのびる約300mの細道「猫の細道」には、108体の福石猫をはじめ、招き猫美術館、猫モチーフのオブジェやアートなどが点在しています。猫の町・尾道らしい、ゆるやかで愉快な空気が漂うスポットです。入り組んだ坂道では、猫が路地を歩いたり、寝そべったりしている光景にも出会えます。猫好きの方はもちろん、路地の雰囲気を楽しみたい方にもおすすめです。
ONOMICHI U2と海辺の散策
坂を下りきったら、海辺のエリアへ。海運倉庫をリノベーションした「ONOMICHI U2」には、ショップやカフェ、ホテルなどの店舗があり、港町の空気を感じながら立ち寄れるのが魅力です。坂道で少し疲れた足を休めながら、瀬戸内の海風に吹かれる時間も旅の大切な一部です。
尾道をもっと楽しむためのヒント
坂道や海側の小路を歩けば、日本遺産「箱庭的都市」の魅力を体感できます。まず展望台から全体を眺めて、そのあとは地図をあまり頼らずに気の向くまま路地へ入ってみる——尾道はそういう歩き方がよく似合う町です。半日でも丸一日でも、歩くほどに発見がある場所です。

