【龍村光峯】錦織の魅力と技法

「温故知新を織る」

織物の世界に革新をもたらし、新たな可能性を切り開いてきた龍村光峯の錦織。伝統的な作品の研究に尽力し、復元技術を高めながらも、新しいデザインの開発に奮励し続けています。まさに「温故知新を織る」を体現し、世界からの注目度も高い龍村光峯の織物。この記事では、龍村光峯の歴史とその技術の特徴について解説します。

錦織京都、龍村光峯とは

まずは龍村光峯の歴史についてご紹介します。龍村光峯は1894年初代龍村平蔵が織物業を創始したことをきっかけに、130年の歴史を刻む老舗の工房です。国内外で展覧会や講演会を開催し、世界からも注目を浴びています。

錦織とは

錦織は、1400年以上前に中国から日本に伝わった織物です。絹からできたその表面は一刻一刻と光とともに表情を変える性質があります。絹糸は、半透明のガラス棒のような形状をしており、その断面は三角形に似ていて、プリズムのような構造になっており、別名「絹のプリズム」と呼ばれています。この構造によって光を透過・反射し、ダイヤモンドのように複雑な輝きを放つのです。気温や湿度により変わる光の影響をそのまま受けるので、錦織が出す模様は、万華鏡のような美しさがあります。

「錦」は、織物を指す他に、美しいもの、立派なものを例える意味としても使われます。「錦」は絹織物の最高峰の芸術品であり、世界的に見てもあれほど色鮮やかで雅な織物はないとされています。歴史的に、日本人にとっては憧れの対象であり、日本の美として世界に誇れるものです。

初代龍村平藏

そんな織物の世界に「革新」を持ち込んだ初代龍村平藏は、法隆寺、正倉院に伝わる古代裂など伝統的な織物の研究に尽力し、復元の第一人者として織物の地位を「芸術の域」にまで導きました。

平藏と交流のあった芥川龍之介は、平藏の作品に惚れ込み、「龍村さんの帯地の多くは、〈中略〉恐るべき芸術的完成があった。私は何よりもこの芸術的完成の為に頭を下げざるを得なかったのである」と「東京日日新聞」に掲載しました。このエピソードは龍村平藏の名を不動のものとし、さらには”織物美術”という表現を日本中に広めたきっかけになりました。

また、クリスチャン・ディオールをはじめとする海外有名ブランドの依頼で生地を制作。活躍のフィールドは世界へと広がっていきました。

龍村光峯の織物技術と伝統

初代龍村平藏の意思と技術は2代目龍村平藏、3代目龍村光峯と引き継がれていきます。その間にもパリ万国博覧会、ベルリン世界手工業博覧会での大賞受賞や日本伝統文化振興賞受賞など数々の功績を残し続けました。

1982年に社名を龍村光峯に改称し、2012年には代表取締役に龍村周が就任することで事実上4代目継承という歴史を刻んでいます。

現代表取締役の龍村周は、「機織りには心を通わす力がある」と感じ、京都をはじめ東京や静岡でも機織り体験を開催しています。また、工房では自ら機織り体験の指導に出向き「伝統織物を継承する」という3代目龍村光峯の理念をしっかりと受け継ぎ活動しています。

龍村周は数々の生徒さんと機織り体験を重ねるなかで、機織りには瞑想にも似た心の浄化のような効果があると話しています。機織りは、絹を育て、木材で機械を作り、竹でできた道具を使うなど「自然に添う技術」とも感じられることから、笑顔と感動もって、多くの人と心を通わすものづくりを作り上げていきたいと願っています。

龍村光デザイン3選

国境を超え、歴史的建造物から発見された織物を復元してきた龍村光峯。そのデザイン総数は140を超えます。デザインが考案される背景にもご注目ください。

アンモナイト錦

アンモナイトは古代生物学や地質学において重要な存在であり、私たちが地球の過去を知る上で貴重な情報源です。龍村光峯の理念は「温故知新を織る」。古代の素晴らしい織物美術を研究・復元し、職人たちと共に伝統技術を後世に伝えてきました。まさにアンモナイト同様、織物の歴史を知る上で、龍村光峯は欠かせない存在となっています。そのような意味も込められたこの「アンモナイト錦」は、2020年に発表された龍村周の新作ながら、龍村光峯の代表デザインの一つと言えるでしょう。

菊花鳳凰文錦(きっかほうおうもんきん)

かつて日本伝統織物保存研究会(現・一般財団法人日本伝統織物研究所)の「先染紋織物(錦)の綜合的復元事業」の一貫として復元した正倉院裂「緑地花鳥獣文錦」をお手本としてデザインした作品です。「菊」は日輪を表わし、「鳳凰」は鳥属の王として、仁愛、慈悲を表現しています。また、高松塚古墳の壁画でよく知られているように、古代信仰においては、四神の一、朱雀として、青龍、白虎、玄武と共に宇宙を支配し、尊崇されてきました。

本作品は、古代の人々の魂を現代に甦らせようと願い、織り上げたものです。まさに復元を生業とする龍村光峯の真髄のデザインと言えるでしょう。

珠鳥文錦(じゅちょうもんきん)

中国・新疆ウイグル自治区トルファンのアスターナから出土した連珠対鳥文錦を元に、古代錦のデザインを参考に考案されたものです。きれいな円でもシンメトリーでもない絶妙にバランスの取れた紋様です。

古代人が大切にしてきた感性と、その深遠な表現を現代にも伝えたいと願い、錦の上に表したとされています。日本だけでなく、世界の古き良きものを研究し、伝承する龍村光峯が世界的に名を広める所以と言えるデザインです。

まとめ

今回は龍村光峯の歴史と匠な技術から生まれるデザインについて紹介しました。デザインは一部しか紹介できませんでしたが、龍村光峯は世界中の織物を復元し、デザインを作り直しており、その作品は140種類以上。

龍村光峯は後世への継承の点からも、体験活動に力を入れています。工房では観光はもちろんVIPのおもてなし、企業研修、修学旅行、こども自由研究など目的に合わせた体験メニューを提供しています。世界からの注目も集めているため、近年では海外からのお客様も多く、こどもからシニア層まで国籍を超えた交流の場としても欠かせない場になっています。織物の世界を身近に感じてみてはいかがでしょうか。

龍村光峯公式HP・オンラインショップ

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