多摩織とは?その魅力と歴史、特徴など詳しく解説

多摩織とは?その魅力と歴史、特徴など詳しく解説

多摩織は、東京都多摩地域を中心に受け継がれてきた、東京の伝統的な織物です。多摩の自然とともに育まれたこの織物は、古くから高級な織物として知られ、絹の持つしなやかな風合いや美しい模様が特徴です。現在では着物だけでなく、現代的な小物やインテリア製品にも使われるなど、その魅力が再評価されています。

本記事では、多摩織の成り立ちや歴史的背景に加え、どのような技法で織られているのか、またその具体的な特徴や魅力について丁寧にご紹介していきます。伝統と現代が織りなす多摩織の世界を、ぜひじっくりとご覧ください。

多摩織とは

多摩織(たまおり)は、東京都八王子市を中心とした地域で生産される伝統的な絹織物です。古くは「八王子織物」として知られ、多摩地方に根づいた養蚕と織物の文化を今に伝える工芸品です。国からもその価値が認められ、1980年に経済産業省より伝統的工芸品の指定を受けています。

多摩織には、五つの代表的な技法があります。それが「多摩結城」「風通織」「紬織」「綟り織」「変り綴」と呼ばれる織りの技法で、それぞれ異なる風合いや意匠をもっています。これらの織物は、いずれも生糸や玉糸、真綿などの自然素材を使用し、手作業によって丁寧に織り上げられており、独特の光沢と肌触りを生み出します。

これらの織物は、見た目の美しさだけでなく、軽くてしわになりにくいという実用面でも評価が高く、長年にわたり多摩地域の生活文化を支えてきました。

多摩織が生まれた背景

多摩織の起源は非常に古く、文献上では平安時代の末期にはすでに多摩地域で絹織物が織られていたことが記録されています。この地が織物の産地として発展した背景には、いくつかの要因が存在します。

まず一つは、豊かな自然環境です。多摩地方は多摩川をはじめとする水源に恵まれており、養蚕に必要な桑の栽培にも適していました。また、養蚕から製糸、そして織物に至るまでの一連の工程を地域内で完結できる環境が整っていたことも大きな要因です。

さらに、戦国時代の後期にこの地を治めていた北条氏が、織物産業の育成を奨励したことも発展の契機となりました。江戸時代には月に数回、絹市が開かれ、八王子の市場には周辺地域から多くの生糸や織物が集まりました。こうした歴史的背景のなかで、現在の「多摩織」としての基盤が徐々に築かれていったのです。

多摩織の歴史

多摩織の歴史は、古くは「八王子織物」としての歴史と重なります。八王子はかつて甲州街道の宿場町としても栄え、多くの人や物資が行き交う拠点でした。この立地が商業的にも織物産業に有利に働き、絹織物の一大産地としての地位を築くことになります。

江戸時代には毎月四日と八日に絹市が開かれ、関東一円から生糸が集まり、織物やその原材料が売買されていました。こうして八王子の織物は「八王子織物」として多くの人々に親しまれるようになります。

19世紀後半、明治時代に入ると、産業の近代化の波がこの地域にも押し寄せます。1887年には「八王子織物染色講習所」が開設され、染織の技術が体系的に教えられるようになります。1899年には「東京府職染学校(現在の八王子工業高等学校)」が創設され、技術の高度化がさらに進みました。

大正末期には、多摩織の新たな象徴ともいえる「多摩結城」が誕生します。これは、大衆向けに親しまれた着物地で、風合いと実用性を兼ね備えた製品として高く評価されました。また、この頃からネクタイやマフラーなどの洋装向けの製品も盛んに生産されるようになります。

昭和以降には、分業体制が確立され、糸づくり、染色、織り、仕上げといった工程を専門の職人が担うようになりました。1980年には、これらの技法や文化が認められ、「多摩織」は国の伝統的工芸品として指定を受け、現代に至るまでその伝統が守られています。

多摩織の特徴・魅力

多摩織の最大の魅力は、豊かな技法のバリエーションと、それぞれが持つ独特な風合いにあります。現在、経済産業省によって伝統的工芸品として指定を受けている五つの織物、「多摩結城」「風通織」「紬織」「綟り織」「変り綴」は、いずれも多摩織を語る上で欠かせない存在です。

「多摩結城」は、糸の不規則な節が生み出す皺(しぼ)と柔らかな肌触りが特徴で、古くから普段着の着物地として重宝されてきました。「風通織」は、二枚の織地を組み合わせることで立体感のある模様が浮かび上がり、織りの中に空気を含む構造が、着用時の軽やかさを生み出します。「紬織」は、太さにムラのある糸を用いて、温かみのある風合いを表現します。「綟り織」は、織り目に意図的な隙間をつくることで、通気性と軽やかさを演出します。「変り綴」は、多彩な緯糸によって複雑で色鮮やかな模様を織り出す、装飾性の高い技法です。

これらの織物はすべて、天然の生糸や玉糸、真綿を主な素材としており、自然の持つ美しさを生かした仕上がりになります。また、しわになりにくく、軽量であるという機能的な特性も、多摩織が現代の暮らしにも受け入れられている理由のひとつです。

もう一つの魅力は、工程ごとに分業されている点です。織物は、糸作り・染色・整経・織り・仕上げといった複数の工程を経て完成しますが、多摩織ではそれぞれの工程を専門の職人が担い、長年の経験と技術によって質の高い製品が生み出されています。このように、職人たちの技術と情熱が一枚の織物に込められていることこそが、多摩織の真の価値といえるでしょう。

多摩織の制作の流れ

多摩織が一つの製品として完成するまでには、いくつもの丁寧な工程が重ねられています。まず、糸づくりから始まります。生糸や玉糸、真綿などを必要な太さに揃えて撚りをかけることで、丈夫で風合いのある糸が完成します。

次に行われるのが染色です。染色には化学染料も使われますが、伝統的な草木染めを用いることもあり、自然な色合いと深みを表現します。染め上がった糸は「整経(せいけい)」と呼ばれる工程で、縦糸として織り機にかける準備がなされます。

整経のあとは、いよいよ織りの工程に入ります。織機は現在では機械式が主流となっていますが、太さにムラのある糸や特殊な柄を織る際には、今もなお手織りが用いられます。熟練の技を持つ織工が、設計された模様に沿って織り進めていく様は、まさに職人芸と呼ぶにふさわしい光景です。

最後に行われるのが仕上げの工程です。織り上がった反物は丁寧に検品され、湯通しや幅出しといった加工を経て、製品として市場に送り出されます。この一連の流れはすべて、多摩地域に根づいた職人たちの連携によって成り立っており、分業でありながらも一体感のあるものづくりがそこにはあります。

まとめ

多摩織は、長い歴史と地域に根ざした文化の中で育まれてきた、東京都が誇る伝統的工芸品です。多彩な技法と風合いの異なる織物は、それぞれに異なる個性を持ちながらも、いずれも日本の美意識と職人技術の結晶といえるものです。

現代の生活様式にも適応し、ネクタイやマフラーなどのアイテムにも展開されている多摩織は、伝統を守りながらも新たな可能性を切り開いています。その魅力に触れることで、日常の中に日本の美しさや心意気を感じることができるはずです。

伝統と革新の融合、それが多摩織の真価です。これからも多摩の地で受け継がれ、次世代へと伝えられていくことでしょう。今後、多摩織のさらなる発展と普及が、多くの人々の暮らしに彩りを添えていくことを願ってやみません。

出典元:多摩織 | 東京の伝統工芸 | 東京都伝統工芸士会

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